鈴木保奈美さんの新刊2冊は、旅の景色と記憶をたどる『中途半端な旅人は語る』と、日常の失敗や仕事への気持ちを綴る『わたし、そんなにとんがってましたかね。』です。写真と旅の余韻を味わうなら前者、短いエッセイを少しずつ読みたいなら後者が選びやすいでしょう。
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同じ人の本が同じ月に2冊出ると、似た内容を別の出版社から出したのかと思いがちです。ところが今回の2冊は、窓の向きがまるで違います。一冊はパリ、ナポリ、マルタ、利尻島など外の景色へ開き、もう一冊は目薬、車での送迎、番組宣伝の反省といった生活の内側へ開く本です。
2026年8月14日の刊行イベントも終了したため、開催前の申込案内を中心にせず、出版社が公開した書誌情報とイベント後のリポートを加えて内容を更新しました。2冊の違い、読む順番、書き手としての鈴木保奈美さんがどこに表れるかを、一冊ずつ確かめます。
鈴木保奈美の新刊2冊は何?発売日・ページ数・内容を比較
『中途半端な旅人は語る』は2026年8月5日発売の144ページ、『わたし、そんなにとんがってましたかね。』は8月7日発売の288ページです。前者は小学館、後者は中央公論新社から刊行されました。
| 書名 | 中心となる題材 | 本の手触り |
|---|---|---|
| 中途半端な旅人は語る | 一人旅、友人や家族との旅、写真 | A5判・144ページ。景色を眺めながら読む |
| わたし、そんなにとんがってましたかね。 | 俳優、母、読者としての日常 | 四六判・288ページ。89編を少しずつ読む |
ページ数だけなら後者が倍ですが、優劣ではなく呼吸の違いです。旅の本は写真と文章の間に立ち止まる余白があり、日常の本は一つの出来事を短いエッセイとして次々に開けます。休日の午後に一冊を広げたいのか、寝る前に一編ずつ読みたいのか。生活の中で本を置く場所を想像すると選びやすくなります。
『中途半端な旅人は語る』はどんな本?ガイドではなく記憶の地図
観光地の効率的な回り方を教えるガイドブックではなく、旅先で起きたことから生き方や好奇心をたどるエッセイです。『Precious』で2024年に始まった連載をまとめ、書き下ろしのコラムと雑誌未掲載写真も加えています。
目次には「混沌のナポリ」「ひとりで旅をする理由」「最高の朝食」「砂漠の夕陽を母と見る」「燕三条の戦利品」などが並びます。都市名だけをコレクションするのではなく、旅先で何を見て、誰と歩き、帰宅後も何が残ったかを題材にする本だと分かります。写真の多くを本人が撮影したことも、視線の主語がぶれない理由です。
刊行イベント後の公式リポートでは、ナポリ旅行の回に写真が一枚もなく、文章だけで街の勢いを伝えようとした話が紹介されました。写真集のように見える本で、写真がない旅が強く記憶に残っている。この逆説は面白いところです。見せる材料が足りないとき、文章は説明の代用品ではなく、歩く速度や雑踏の音まで作る道具になります。
旅の予定がある人だけの本でもありません。遠出できない日にページを開き、他人が曲がった角を少し借りる。旅行記にはそんな小さな移動があります。行き先より「見知らぬ場所でどう振る舞う人なのか」が気になる読者に向く一冊です。
写真と旅の文章を一緒に味わいたい人へ
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『わたし、そんなにとんがってましたかね。』はどんな本?
『婦人公論』の連載89編を収めた、日常と仕事のエッセイ集です。娘を車で送ること、目薬をうまく差せないこと、番宣番組でも笑いを取りたいと思うことなど、俳優の華やかな肩書きから半歩ずれた場面が並びます。2020年の『獅子座、A型、丙午。』に続く第2弾です。
題名の「とんがってましたかね。」には、過去を反省文にするでも、昔の自分を正当化するでもない距離があります。うまくいかなかった日を、数年後の自分が少し面白がって眺める。失敗を教訓へ急いで変換しないところに、生活エッセイのやわらかさがあります。
イベントリポートによると、本人はインタビューで意図が十分伝わらなかった経験から、自分で書くことへ向かったと説明しています。これは俳優が余暇に本を出した、という話より大切です。脚本の言葉を演じる仕事をしてきた人が、題材も語尾も自分で選ぶ。その切り替えを何年も続け、288ページへ育てた本なのです。
一編ずつ読めるため、まとまった時間を確保しにくい人にも合います。読み進めるうちに、俳優の舞台裏を覗くというより、自分にもある「きちんとしたいのに少し外す日」が思い出されるでしょう。著者の話を読んでいたのに、途中から自分の失敗を考えている。その反転がエッセイの楽しさです。
日常の失敗を笑いへ変える文章を読みたい人へ
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刊行イベントでは何を語った?60歳の誕生日に二つの連載が合流
記念イベントは60歳の誕生日だった2026年8月14日、代官山蔦屋書店で開催されました。申込受付は終了していますが、中央公論新社が8月17日にイベントリポートを公開し、2冊が同時刊行になった経緯や、文章を書く理由が伝えられています。
二つの連載担当から、ほぼ同じ時期に書籍化の話が出たことが同時刊行の始まりでした。最初から「60歳記念出版」という大きな看板を先に立てたのではなく、積み重なった原稿が節目の年に合流した形です。誕生日は目立つ日付ですが、本の中身を支えているのは、2017年からの『婦人公論』連載と2024年からの『Precious』連載。その時間の長さを忘れないほうが、2冊の見え方は正確です。
当日は花束を受け取り、旅の文章、写真を撮れなかったナポリ、書くことを始めた経緯などを語りました。イベントを「開催予定」とだけ紹介していた段階から、何が話されたかまで確認できる段階へ変わったため、本記事も終了済みの抽選や参加権を案内していません。
2冊の読む順番は?いま欲しい時間で決める
順番に正解はなく、外へ視線を向けたいなら旅の本、生活を立て直す小さな笑いが欲しいなら日常の本からで大丈夫です。前作を未読でも『わたし、そんなにとんがってましたかね。』の各編は読めます。文章の変化を長い時間で追いたい人だけ、2020年刊の『獅子座、A型、丙午。』へ戻るとよいでしょう。
2冊を続けて読む場合は、同じ日の読み比べも向いています。旅先での大きな景色を数ページ読み、次に目薬や送迎の小さな出来事へ移る。俳優という一つの肩書きの中に、遠くを見る視線と足元を見る視線が同居していることが分かります。
贈り物として考えるなら、旅行や写真が好きな相手には前者、短い随筆を日課のように読む相手には後者が自然です。有名人の名前だけで選ばず、受け取る人がページを開く時間まで想像すると、二冊の差がそのまま選ぶ理由になります。
『中途半端な旅人は語る』は、知らない街へ出たときの鈴木保奈美さんを読む本。『わたし、そんなにとんがってましたかね。』は、よく知る生活へ戻ったときの鈴木保奈美さんを読む本です。どちらを先に開いても、二冊目で最初の一冊の輪郭が少し変わる。その往復こそ、同じ月に二冊並んだ面白さだと思います。
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